大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和55年(わ)379号 判決

主文

被告人を懲役三月に処する。

この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、船舶の清掃業等を営む内外産業株式会社の従業員で、同会社がタンカー「徳山丸」の貨物油タンクの清掃を行うに際し、人夫三四名を指揮監督して右清掃作業を実施したものであるが、小島信夫らと共謀のうえ、法定の除外事由がないのに

第一  昭和五五年三月二日、高知県室戸市室戸岬町所在の室戸岬灯台から真方位一七四度約二三七海里付近を航行中の前記「徳山丸」において、同船貨物油タンクから回収した原油を含む油性混合物約四五六袋(約一五・三二トン)を同船から海上に投棄し

第二  同月三日、前記室戸岬灯台から真方位一七八度、約一七一海里付近を航行中の前記「徳山丸」において、同船貨物油タンクから回収した原油を含む油性混合物約八五五袋(約二八・七二トン)を同船から海上に投棄し

第三  同月四日、前記室戸岬灯台から真方位一七四度、約一九八海里付近を航行中の前記「徳山丸」において、同船貨物油タンクから回収した原油を含む油性混合物約三四九袋(約一一・七二トン)を同船から海上に投棄し

たものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人の判示各所為は包括して海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律五五条一項一号、四条一項、刑法六〇条に該当するところ、本件犯行のみによって直ちに海洋汚染の実害が惹起されるものではないけれども、従来安易に海洋を廃棄物の最後の捨て場所として長年扱ってきた結果、これが蓄積されて新たな海洋汚染源となっている現状からすれば、本件犯行は必ずしも軽視できないところであって、被告人の置かれた立場からは種々酌量すべき情状も窺われるものの、これに法定の除外事由に類似した止むを得ない事情等が附加すれば格別、少量の不法投棄とも言えない本件の如き場合、罰金を支払えば済むとの量刑は適当でなく、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役三月に処したうえ、刑法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 阿部功)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例